更新日時 2011年08月15日

 田瀬ダム(たせダム)は岩手県花巻市東和町、一級河川・北上川水系猿ヶ石川(さるがいしがわ)に建設されたダムである。国土交通省東北地方整備局が管理する多目的ダムで、北上特定地域総合開発計画(KVA)に基づき建設された「北上川五大ダム」で最初に計画され、二番目に完成したダムである。日本最初の国直轄ダムでもある。堤高81.5メートルの重力式コンクリートダムで、猿ヶ石川と北上川の治水と水力発電が目的である。ダムによって形成された人造湖は田瀬湖(たせこ)と呼ばれ、東北地方の多目的ダム湖では屈指の規模である。
有効貯水容量 101,800,000立米 利用目的 洪水調節・不特定利水・発電
事業主体 国土交通省東北地方整備局 電気事業者 電源開発
発電所名(認可出力) 東和発電所(27,000kW) 施工業者 西松建設 着工年/竣工年 1938年/1954年
 田瀬ダムが建設された猿ヶ石川は岩手県内における北上川水系の中でも大きな支流である。早池峰山の南方に隣接する薬師岳を源に発し、南へ流路を取り遠野市を流れ来内川を併せる。その後は概ね西に流路を変え、田瀬ダムを通過した後国道283号(釜石街道)に沿って流れ、花巻市内で北上川に合流する。流路延長88.0キロメートル、流域面積は958.1平方キロメートルである。ダムは猿ヶ石川の中流部に建設された。ダムが完成した当時の所在地は、宮沢賢治が描いた理想郷・「イーハトーブ」のモデルとも言われる和賀郡東和町であったが、平成の大合併に伴って現在は花巻市となっている。ダムの名称は大字である「田瀬」から採られた。
田瀬湖側ダム堰堤。
 ダム湖である田瀬湖は、北上川水系に建設された全ダムの中で最も規模が大きく、東北地方に完成している全ての人造湖においても奥只見湖(福島県・新潟県)、田子倉湖(福島県)、宝仙湖(秋田県)に次ぐ大人造湖である。湖岸は複雑に入り組んだ地形となっていて、多くの魚類が生息している。フナ、コイ、オイカワ、ブラックバスといった人造湖によく棲息する魚類のほかサクラマス、ワカサギ、ヤマメ、ハス、ヨシノボリ、ウキゴリなどといった清流に棲息する魚類も多い。横峰地区釣り公園など釣り場も整備されている。また広大な面積を利用してボート競技が盛んに行われている。田瀬湖は国内B級コースの漕艇場(全長2,000メートル)として日本ボート協会から公式に認定されており、1999年(平成11年)には全国高等学校総合体育大会(インターハイ)のボート競技会場にもなった。このほかオリンピック代表の合宿地、関東地方の大学ボート部の合宿地としても盛んに利用をされている。ボートコースそばにはヨットハーバーも設置され、これら合宿のほか一般の愛好者にも利用されている。2008年7月には、ギリシャのオリンピック代表チームも日本代表ナショナルチームと共に合宿を行った。2005年(平成17年)には花巻市の推薦により財団法人ダム水源地環境整備センターが選定する「ダム湖百選」に、御所湖や錦秋湖と共に選ばれた。
田瀬ダム堰堤。
この移動式設備は何?
クレストラジアルゲート6門。
田瀬ダムの下流側。
田瀬ダムものしり館・田瀬ダム防災センター。
右岸上流から本体を望む(昭和28年8月12日) 右岸から本体下流面を望む(昭和28年5月14日)
右岸上流から本体を望む(昭和29年8月7日) 田瀬ダム建設の記録より。
田瀬ダム建設には鉄道設備も使われていた。
岩根橋駅からの骨材やセメント運搬設備図面。(田瀬ダム建設の記録より)
 早池峰ダム(はやちねダム)は岩手県花巻市大迫町(旧稗貫郡大迫町)地先、一級河川・北上川水系稗貫川(上流では岳川と呼ばれる)に建設されたダムである。岩手県 ‐ 県南広域振興局花巻土木センターが管理する補助多目的ダムで、堤高73.5mの重力式コンクリートダムである。稗貫川の治水及び花巻地域の水がめとして建設された。ダム湖は霊峰・早池峰山に因んで早池峰湖(はやちねこ)と名付けられた。
総貯水容量 15,900,000 立米 有効貯水容量 15,750,000 立米
利用目的 洪水調節・不特定利水上水道・かんがい・発電 事業主体 岩手県 電気事業者 岩手県企業局
発電所名(認可出力) 早池峰発電所(3,000kW)
施工業者 鹿島建設・佐藤工業 着工年/竣工年 1982年/2000年
 北上川水系は「北上川五大ダム」計画で建設省(現・国土交通省)により北上川本川と雫石川・和賀川・猿ヶ石川・胆沢川に多目的ダムが建設されていた。一方岩手県も独自に補助多目的ダムの建設を北上川支流で進め、中津川には綱取ダム(重力式コンクリートダム・59.0m)を1982年(昭和57年)に完成させていた。稗貫川は花巻市内で北上川に合流する主要支川の一つであるが、昔から洪水を繰り返し流域に被害をもたらしていた。一方花巻市の人口は次第に増加、花巻空港の完成や東北自動車道の整備等により工業地域の拡充は顕著となり、これに伴う水需要は急速に高まっていった。更に和賀・稗貫地域の通称「稗和地区」は古来より農業が盛んなのにも拘らずかんがい用水の不足が起き易く、豊沢ダム(豊沢川)が稗和西部に完成したものの東部地域の農業用水は不足しがちであった。こうした需要もあり岩手県は稗貫川本川に洪水調節と花巻市等への上水道・工業用水道供給、稗和地域へのかんがいそして県営水力発電を目的に稗貫郡大迫町落合地先に補助多目的ダムを計画した。当初はダム所在地から「落合ダム」というダム名であったが、1988年(昭和63年)に地元の要望によって霊峰・早池峰山から名を取って翌1989年(平成元年)に「早池峰ダム」へと改名した。2000年(平成12年)に完成している。自然越流型のいわゆる「坊主ダム」で、満水になると自然に洪水吐きから放流される方式を採用していて、水門は設置されていない。
早池峰発電所の概要。
早池峰ダム堰堤下流側。
早池峰ダム堰堤下流側。
早池峰ダム堰堤早池峰湖側。
落合大橋から早池峰湖・早池峰ダムを見る。
早池峰湖。
 岩洞ダム(がんどうダム)は岩手県盛岡市玉山区(旧岩手郡玉山村)、一級河川・北上川水系丹藤川に建設されたダムである。農林省(農林水産省)東北農政局が国営岩手山麓開拓建設事業の中心事業として建設した農業用ダムで、現在は岩手県企業局が管理する県営ダム。かんがいが主目的であるが水力発電の目的も持つ多目的ダムである。堤高40メートルのロックフィルダムである。ダム湖は岩洞湖(がんどうこ)と呼ばれるがこちらが有名で[1]、地域のレクリェーションスポットとして観光客が多い。
総貯水容量 65,600,000 立米 有効貯水容量 46,300,000立米 利用目的 灌漑・発電
事業主体 岩手県 電気事業者 岩手県企業局
発電所名(認可出力) 岩洞第1発電所(41,000kW) 岩洞第2発電所(8,300kW)
施工業者 大成建設 着工年/竣工年 −/1960年
 古来より北上川流域は稲作が盛んであったが、北上川本川は松尾鉱山からの強酸性の河水により農業に利用する事は不可能であった。この為各支流からの取水を行っていたが、旱魃時には直ぐに水不足に陥り、各地で凄惨な「水争い」を繰り広げていた。戦前より灌漑用の貯水池建設を地元より要望されていた農林省は、戦後食糧増産の緊急性もあって北上川流域に灌漑用のダムを建設する計画を立てた。これに伴い山王海ダム(滝名川)・豊沢ダム(豊沢川)等が建設されたが、北上川上流の丹藤川にも巨大な貯水池を有する灌漑用ダムを計画、1960年(昭和35年)に完成した。ダムの型式はロックフィルダムであるが、中心部にあって水を遮断するコアが傾斜している「傾斜土質遮水壁型ロックフィルダム」という型式である。この型式はロックフィルダムの中では稀少なものであるが、御母衣ダム(庄川)・九頭竜ダム(九頭竜川)・岩屋ダム(馬瀬川)の様に大規模なものが多い。岩洞ダムはその中では最も堤高が低く、高さは40.0mである。ダムは岩手県による県営発電にも利用されており、岩洞第一発電所・岩洞第二発電所の2つの水力発電所によって認可出力約50,000kWを発電している。この事から、岩洞ダムは灌漑と水力発電を目的とする多目的ダムといえる。だが、洪水調節機能を有していないので厳密な意味での多目的ダムとは異なる。
 ダムによって出現した人造湖は岩洞湖として2005年(平成17年)財団法人ダム水源地環境整備センターの選定でダム湖百選に選ばれている。岩洞湖は全国のダム湖の中で堆砂の進行が最も遅いダムの一つで、試算では無策で放置した場合約70万年経たないと、堆砂容量が満杯にならないと見込まれている。周囲は自然が豊富で新緑や紅葉が美しく、盛岡市内からも国道455号で比較的近い位置にあることから釣り・キャンプ・カヌー等のレジャー客が多く訪れる。1961年(昭和36年)、ダム完成の翌年には外山早坂高原県立自然公園にも指定されている。尚、所在地である岩手郡玉山村は、平成の大合併に伴って盛岡市と合併し玉山区となっている。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
田瀬ダム・早池峰ダム・岩洞ダム